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デザインが差をつけた産業機器7社の事例―成功企業に学ぶ競争優位の作り方


産業機器市場において、性能や価格だけで競争優位を確立することが難しくなっています。経営者層の世代交代により、機能が同等であればデザイン性の高い製品を選ぶ傾向が強まっているためです。

グローバル市場でも欧州・韓国・中国メーカーがデザイン戦略に力を入れており、日本企業も対応を迫られています。本記事では、デザインの力で市場での差別化に成功した7社の事例を紹介し、産業機器におけるデザインの重要性と具体的な効果を解説します。

産業機器は機能・性能だけでは勝てない時代へ

産業機器の購買基準が大きく変化しています。かつては性能と価格が最優先でしたが、現在はデザインやブランドイメージが意思決定に影響を与えるようになりました。

この背景には、経営トップの世代交代があります。幼少期から優れたデザインに囲まれて育った新世代の経営者は、「自社で使う機械もカッコ良い方が良い」という価値観を持っています。また、人材不足が深刻化する中で、工場のイメージ改革が求められていることも要因の一つです。

「見せる工場」と3K職場イメージ払拭の必要性

工場の職場環境といえば、かつては「3K(きつい・汚い・危険)」が代名詞でした。しかし現在、人材不足が深刻化する中で、職場のイメージ改革が急務となっています。

作業現場を清潔で快適、そして誇りを持てる空間に変えることで、優秀な人材を惹きつけ離職を防ぐ効果が期待されています。そこで注目されているのが「魅せる工場」というコンセプトです。工場を単なる生産の場ではなく、見学者や従業員にとって魅力的な空間にする取り組みが広がっています。

工場見学を産業観光として活用し、自社製品や技術のファンを増やす企業も増加中です。このような流れを受け、導入コストが高めでもデザイン性の高い産業機器を選ぶ判断が増えています。工場全体の美観やブランディング向上のため、機械設備にも洗練されたデザインが求められているのです。

欧州・韓国・中国メーカーとのデザイン競争激化

グローバル市場でも、産業機器のデザイン競争は激しくなっています。欧州企業は伝統的に工場や機器のデザインを重視してきましたが、近年は中国企業もその傾向を明確にしています。

世界的なデザイン賞であるRed DotやiFデザイン賞では、ヨーロッパだけでなく韓国・中国の産業機器メーカーの受賞が増加しており、各社がデザイン戦略に力を入れていることが伺えます。日本企業も含めてグローバルに「見た目の良い機器」でなければ選ばれない時代に突入しています。

海外の展示会ではスタイリッシュな外観を持つ機械が注目を集め、デザインが売上に直結するケースも増えています。また、海外メーカーは素材感や仕上げにもこだわり、単なる機能美だけでなく質感による高級感を演出することで差別化を図っています。

経営者世代交代による購買決定要因の変化

経営トップの世代交代は、産業機器の購買基準に大きな変化をもたらしています。特に同族経営の2代目・3代目経営者は、幼少期からデザイン性の高い製品に囲まれて育ったケースが多く、審美眼が養われています。

そのため「自社で使う機械もカッコ良い方が良い」という考えが根付いており、機能や価格が同等ならデザインの優れた方を選ぶ傾向があります。また、工場を訪れる取引先や若い従業員に与える印象も考慮し、「古臭い機械より洗練されたデザインの機械を導入して自社の先進性を示したい」というニーズも高まっています。

裕福な環境で育った新世代の経営者は日常的に優れたデザインに触れており、「自社工場に導入する機器も見た目に優れたものを選びたい」という意識を持つようになっています。このように、経営判断においてデザイン重視の姿勢が強まったことで、メーカー各社はデザイン投資を避けられなくなっています。

【医療機器】島津製作所AutoAmp―医療現場に溶け込むPCR検査装置

https://www.shimadzu.co.jp/cl/products/autoamp/index.html

島津製作所が開発した遺伝子解析装置「AutoAmp(オートアンプ)」は、PCR検査機器として医療現場になじむデザインを追求した製品です。多忙な病院の検査室で誰もが直感的に使えるよう、操作性と形状を磨き上げています。

その結果、2021年には機械工業デザイン賞の最優秀賞(経済産業大臣賞)を受賞し、デザインと使いやすさの両面で高い評価を得ました。新型コロナウイルス流行初期の緊急課題として開発され、わずか半年という短期間で製品化にこぎつけた点も注目されています。

大きな曲面で圧迫感をなくした筐体設計

AutoAmpの外観でもっとも特徴的なのは、前面に配された大きな曲面です。ユーザーが正面に立った際に威圧感や圧迫感を与えないよう、この緩やかにカーブしたフォルムがデザインされました。

硬い箱型ではなく、シンプルながらも念入りに吟味された曲面形状により、医療従事者に心理的な安心感を与えています。医療機器としての審美性も追求されており、医療現場に自然に溶け込む外観を実現しています。

さらに配色面でも工夫が凝らされています。左右に黒を配し中央に白を配置することで装置をコンパクトに見せ、複数台並べた際にも一体感と美しさが出るよう設計されています。このような筐体デザインにより、大型装置でありながら圧迫感を感じさせず、病院の限られたスペースにも調和する外観を実現しました。

社内デザインチームによる1年弱の開発過程

AutoAmpの開発は、新型コロナウイルス流行初期の緊急課題として社内横断プロジェクトで進められました。島津製作所の社内デザインチームとエンジニアが密接に協働し、人間工学の知見や過去の操作性データ、ラフモデル試作など可能な限りの手法を動員して最適解を導き出しています。

この短い開発期間の中でも、扉の開閉に独自のヒンジ機構を開発してストレスを軽減するなど細部まで配慮されています。2020年春頃から着手し、同年内にはプロトタイプを完成、2021年に正式リリースというスピード感でした。

社内チームのデザイナーによる熱意と迅速な意思決定が功を奏し、開発開始から1年に満たない期間で完成しました。この背景には、感染症対策に迅速に貢献したいというミッションと、社内にデザイン専門部署を持つ島津製作所の強みがありました。

機械工業デザイン賞最優秀賞が認めた使いやすさ

AutoAmpはそのデザインと機能の融和により、第51回機械工業デザイン賞最優秀賞を受賞しました。審査では、分析シークエンスを完全自動化しPCR検査時間を半減、人為的ミスを排除した点が高く評価されています。

また、曲面とコンパクトさを追求した造形処理が並列設置時の圧迫感を軽減している点、感染第1波時に全社プロジェクトを組んで半年で開発した迅速性、中小医療施設でも使いやすく導入しやすい低価格設定も受賞理由に挙げられました。

医療現場からも、「初めてPCR検査装置を扱うスタッフでも迷わず操作できる」「装置前面の表示やハンドルが直感的で使いやすい」といった声が寄せられています。大画面のインターフェースは情報の視認性が高く、文字やボタンのサイズ・配置にも配慮することでミスを防ぎ安心して使えるUIを実現しました。

【医療機器】Ambu社―使い捨てなのに高級感がある内視鏡

https://www.ambu.co.jp

デンマークのAmbu社は、世界初の使い捨て内視鏡を次々と市場投入し、医療業界に新風を吹き込んでいます。その中でも使い捨て十二指腸鏡「Ambu aScope Duodeno」は画期的な製品として知られています。

感染リスク低減と経済性向上を両立したことで注目され、さらにデザイン面でも優れており、Red Dotデザイン賞をダブル受賞するなど、機能と高級感を兼ね備えた製品です。使い捨てとは思えない高品質なデザインと操作性が特徴となっています。

世界初の使い捨て十二指腸鏡がもたらした革新

従来、内視鏡は再利用が前提で、特に十二指腸内視鏡は洗浄・消毒が難しく院内感染リスクが問題視されてきました。Ambu社はこの課題に対し、世界初の使い捨て十二指腸鏡を開発することで革新的な解決策を提示しました。

このシングルユース内視鏡は、使用後に廃棄するため患者間の感染リスクを完全に排除できます。米国では従来型十二指腸鏡による院内感染事件が発生し大きな問題となっていましたが、Ambuの製品はそうしたリスクを根本から断っています。

加えて、洗浄・滅菌が不要になるため医療従事者の負担も軽減され、病院の感染対策に革命をもたらしました。米国FDAもAmbuの十二指腸鏡を画期的デバイスに指定し、2020年には迅速承認しています。安全性と手間削減で大きなメリットを提供したAmbu社の使い捨て内視鏡は、保守的だった内視鏡分野に新たなスタンダードを築きつつあります。

Red Dot賞をダブル受賞した製品の特徴

Ambu社のaScope Duodenoは、その優れたデザインと技術により2021年のRed Dotデザイン賞を2部門で受賞しました。一つはプロダクトデザイン部門、もう一つは革新的製品部門での受賞で、製品のデザイン品質だけでなく革新性も高く評価されたことを意味します。

Ambuの使い捨て内視鏡は「単回使用でありながら従来の内視鏡に匹敵する性能と操作性」を実現しており、安価なプラスチック製品とは思えない高い質感を備えています。デンマークのデザインらしく人間工学に基づいた握りやすいハンドルデザインと、操作部の堅牢さ・信頼感が両立しており、医師が安心して扱える構造です。

例えば4方向に操作できるコントロールホイールは使い捨てとは思えない精密さで、違和感なく操作できると評判です。また、本体サイズを従来より小型化し軽量にすることで、使用時の取り回しやすさも向上しています。こうした細部まで配慮された設計により、「シングルユースなのに高級医療機器のような品質」を実現した点がRed Dotの審査員にも印象付けられました。

感染対策と経済性を両立させた発想転換

Ambuの使い捨て内視鏡が高く評価される理由の一つは、感染リスク低減とコスト削減の両立という点です。使い捨て化で感染防止効果は絶大ですが、それだけでなく経済面でもメリットがあります。

従来は内視鏡を使用する度に高度な洗浄・消毒工程が必要で、そのための人件費や設備コストがかかっていました。Ambuの提案は、その工程を丸ごと無くすことで病院の運用コストを下げるというものです。

使い捨て内視鏡の単価は近年の電子部品の低価格化もあり、1本あたり数万円程度と競争力のある価格設定が可能になっています。洗浄設備や人手を省ける分、トータルコストで見れば経済的にも有利です。さらに、再利用しないため内視鏡の破損修理や減価償却といったコストも不要になります。

Ambu社自身も「安全性・効率性・経済性のすべてを満たす製品」とアピールしており、従来の常識を覆す発想転換が評価されています。医療現場からは「洗浄の手間が省けスタッフの労力が軽減した」「緊急時にもすぐ新品と交換できる安心感がある」といった声が上がり、感染対策上も経営上も恩恵が大きいことが実証されています。

【製造装置】関東精機PUREMATIC―展示会で目を引くLED搭載温調機

https://www.kantoseiki.co.jp/products/pure-matic

群馬県の関東精機株式会社が開発した工業用温度調整装置「PUREMATIC」は、製造現場の冷却水・油温を精密に制御する装置です。この製品は機能面の優秀さに加え、展示会で目を引くデザインによって注目を集めました。

筐体に組み込まれたLEDイルミネーションや洗練された外観デザインが特徴で、従来の産業機械にはない斬新さを備えています。デザイン開発を担当したのは産業機器デザイン専門会社のアドライズ社で、同社の提案により30案以上ものデザイン検討が行われた末に完成した製品です。

アドライズ社が30案以上検討して生まれたデザイン

PUREMATICのデザインプロセスでは、当初から「新ブランドにふさわしい革新的デザイン」を求める関東精機の要望がありました。アドライズ社のデザイナーたちは、まず大きく3種類のラフデザイン案を提示し、そこから顧客と何度もレビューを重ね最適解を探っていきました。

デザインイメージ、カラーリング、筐体構造条件など様々な要素を調整し、構想からスケッチ、検討を繰り返す中で、最終的にはカラーや細部バリエーションも含め30案を超えるアイデアが出されました。

その中から厳選された案をベースに詳細設計へ進みましたが、これほど多数の案を検討した背景には「展示会で目立ち、ブランドの象徴となるデザインにしたい」という強い意志がありました。プロジェクトには関東精機の経営層も深く関与し、社外のデザイン専門家と協働しながらアイデアを磨き上げています。その結果生まれたデザインは、シンプルさと先進性を両立しつつ、同社の新ブランドイメージを具現化したものとなりました。

光の演出とメンテナンスしやすさの両立

PUREMATIC最大の特徴は、筐体に組み込まれたLEDによる光の演出です。デザイン家電のようにイルミネーションで存在感を示すことで、展示会ブースでも遠目から注目を集めることに成功しました。

関東精機からは「展示会で製品をアピールしたい」との要望があり、アドライズ社はLEDを活用した加飾を提案しました。具体的には、LED光源をアクリル板に透過させ、白色の拡散フィルターで反射する間接照明構造を採用し、柔らかな光を演出しています。これによりギラつきすぎず上品な光り方となり、高級感を損なわないよう配慮されています。

また、本装置は工業機械であるためメンテナンス性も重視されました。設計段階で筐体カバーの着脱に必要なネジ数を最小限に抑える構造とし、前面をドア式に開閉できるようにして機械内部へのアクセスを容易にしています。フィルターの清掃・交換もワンタッチで行える設計です。

アドライズ社は「デザインに影響しない範囲で部品点数の削減や共通化、複雑形状の排除を行い、製作コストを抑えつつ整備性も確保した」と述べており、見た目と実用性の両立に成功しています。

JIMTOF出展で実証された集客効果

完成したPUREMATICはまず国内最大級の工作機械見本市「JIMTOF 2022」で披露されました。ブースではLEDが鮮やかに輝く温調機が来場者の目を引き、多くの人が足を止める効果があったと報告されています。

関東精機の魵澤社長はJIMTOF出展後、「展示会で本製品が日刊工業新聞の取材を受け、紙面にも掲載された」と語っています。展示会でのデザイン効果がメディアにも取り上げられるほど大きかったことを示しています。2022年12月2日付の日刊工業新聞23面にPUREMATICの記事が掲載され、光る温調機というユニークな取り組みが紹介されました。

同社はこのコンセプトが市場に受け入れられる手応えを得て、翌年度中にはPUREMATICを正式な製品ラインに乗せ、主力のオイルマチックに次ぐコア製品に育てていく計画を表明しています。JIMTOFという大舞台での成功体験は、デザインへの投資が商談リード獲得に直結することを実証しました。今後、関東精機はこのデザイン路線をさらに発展させ、他の製品群にもブランド統一感のある意匠を展開していくことでしょう。

【製造装置】東伸eS!―コンパクトなのに高性能なスリッター

https://www.cstoshin.co.jp/products/detail_64.html

東伸株式会社の開発した高速汎用スリッター「eS!」は、ロール状の材料を高速でスリット(細幅に裁断)し巻き取る産業機械です。この装置は500m/分の高速スリットや大径ロール対応といった優れた性能を持つ一方で、非常にコンパクトで使いやすい点が特徴です。

さらに、デザイン面でも安全性・操作性に配慮した工夫が随所に見られます。どこからでも稼働状態が分かるLED表示や、誰でも迷わず扱えるアイコンベースの操作パネルなど、人間工学に根ざした設計によりユーザーフレンドリーな装置となっています。

どこからでも稼働状態が分かるLED表示

eS!スリッターでは、機械の稼働状況を一目で把握できるよう、筐体に全方位から視認できるLEDサイン(警告灯)が搭載されています。装置の上部に360度見渡せるパトランプ状の表示灯を設置したもので、稼働中・停止中・警報発生時などの状態を色や点滅パターンで遠くからでも確認できます。

工場内は大型機械が並び視界が遮られることも多いですが、eS!であれば作業者がどの位置からでも機械の状態を把握でき、安全性と効率が向上します。例えば、背面側で作業しているオペレーターもLEDサインの色で機械が停止していることを認識でき、うっかり稼働中に手を入れてしまう事故を防げます。

またこのLEDサインは明るい色調でデザインのアクセントにもなっており、「堅牢でありながら明るい印象の外観」に寄与しています。曲線を取り入れた角の丸い筐体デザインと相まって、安心感と視認性を両立した仕上がりとなっています。

アイコンで迷わず操作できる工夫

操作パネルには、言語に依存しない分かりやすいアイコン表示を採用し、初めての作業者でも迷わず扱えるよう配慮されています。巻き取り速度の設定や刃の位置調整など、複雑になりがちな操作項目を誰にでも直感的に理解できるピクトグラムや色付きボタンで表示しています。

これにより、ベテランでなくとも短時間のトレーニングで機械を扱えるようになりました。さらに機械背面にもモニター表示を設け、機械の裏側で作業するときでも状態確認や操作が可能になっています。

現場からは「表示が見やすく、各種設定もガイダンスに従ってできるので作業ミスが減った」という声が上がっています。人間工学に基づいたグリップ形状の非常停止ボタンや、間違い操作を防ぐためのカバー付きスイッチなど、細部にも安全・使いやすさの工夫があります。

こうした設計思想は、「BtoB製品にこそデザインの力が必要」とする同社のポリシーに沿ったものです。結果としてeS!は誰にでも扱いやすく、疲れにくいスリッターとなり、現場の生産性向上に貢献しています。

グッドデザイン賞が評価した使い勝手

東伸のeS!スリッターは、そのユーザビリティとデザイン品質により高い評価を受けています。特に、国内のデザイン賞でも使い勝手の良さが評価ポイントとして挙げられました。

デザイン開発を担当したアドライズ社によれば、「競合製品のデザイン動向や市場ニーズを調査し、未来を見据えた独自のデザイン戦略を策定した」とのことで、eS!には戦略的デザインが反映されています。また開発当初からグッドデザイン賞受賞を目指してプロジェクトが進められ、使い手視点に立った細やかな配慮が評価につながりました。

例えば全方位警告灯やアイコン操作系により、安全性・作業効率・視認性が向上した点は「デザインが現場課題を解決した好例」として審査員からも賞賛されています。さらに、筐体カバーの形状や色使いもブランドイメージ向上に寄与しつつ、鋭利な突起をなくし作業者が怪我をしないようにするなど現場目線の優しさが滲み出ています。

このように、eS!はデザインによって機能と人への配慮を両立した製品として、グッドデザイン賞などでその使いやすさが認められました。今後も東伸はデザインを経営戦略に位置付け、ユーザーに愛される産業機械づくりを推進していくでしょう。

【協働ロボット】シナノケンシAspinaAMR―作業者と一緒に働くロボット

https://aspina-robotics.com/ja/products/amr

長野県の老舗メーカー、シナノケンシ株式会社(ブランド名ASPINA)は、近年自律走行搬送ロボット(AMR)分野に力を入れています。その代表的製品「AspinaAMR」は、工場内で部品や製品を自動搬送し、作業者と協働して働くロボットです。

単に自動運搬車としての機能が優秀なだけでなく、人と共存するための親しみやすいデザインを備えている点が特徴です。販売開始から順調に導入実績を伸ばし、発売約1年で100台以上が導入されるヒット製品となりました。その背景には、デザインによる安全性・操作性の向上と、現場の実情に即した使いやすさがあります。

角を丸くして親しみやすくした外観

AspinaAMRの外観デザインでまず目を引くのは、ロボット本体の四隅が大きく面取りされ丸みを帯びていることです。これは「現場で一緒に働く仲間として、作業者に親しみを感じてもらえるように」というコンセプトから生まれました。

シャープで先進的でありながらも角を落として柔らかな印象を与えるフォルムは、怖い機械ではなく頼れるパートナーとしての雰囲気を醸し出しています。シナノケンシは当初から「農場の共同作業者のような親近感あるデザインを目指したい」と考えており、デザインパートナーのアドライズ社はこの課題に対し角丸のフォルムを提案しました。

結果、重厚な産業ロボットによくある無機質さが払拭され、愛嬌すら感じられる外観となっています。カラーリングも清潔感のある白を基調にして、工場の床や設備になじみつつも目立つデザインです。現場作業者からは「ロボットが怖い機械ではなく、可愛い存在に思えてくる」との声もあり、心理的バリアを下げる効果が確認されています。

センサーの邪魔をしない筐体の工夫

協働ロボットであるAspinaAMRは、安全のために各種センサー(LiDARレーザーやカメラ)を搭載しています。そのセンサー機能を最大限発揮させるため、筐体デザインでも視野確保に配慮しました。

具体的には、センサーの発するレーザーやカメラの視界を遮らない位置・形状でカバー部品を設計しています。ロボット本体はコンパクトに収めつつも、角の面取りによってセンサーの視野角が広がるよう工夫されています。特に四隅のカバー形状はセンサーに映り込まないようシミュレーションが重ねられ、ロボットの動作に影響を与えない筐体デザインに仕上がりました。

また、LiDARやカメラモジュール自体も外付けのように突出させず、カバー内に一体化することで衝突リスクを低減しています。その上で、センサーレンズ部分だけ開口部を設けクリアパーツで保護しつつ視野を確保しています。これにより、ロボット周囲360度の障害物や人を的確に検知でき、安全に自律走行できるのです。

デザイナーは「機能を満たす造形」を追求し、見た目の美しさと機能性が両立する形を作り上げました。結果として、AspinaAMRはデザインがセンサー性能を引き立てる好例となっています。

100台以上売れた理由と現場の評価

AspinaAMRは2024年に100kg可搬モデル(AspinaAMR100)を発売して以来、順調に導入実績を積み重ねています。発売から約1年余りで累計100台以上の受注・導入を達成した背景には、その使いやすさと信頼性があります。

まず、導入時のハードルが低く、難しい初期設定なしに地図作成と経路設定ができる「簡単導入」が現場に好評でした。また幅525mmという小回りの利く小型ボディで狭い通路や既存ラインにも入り込めるため、日本の工場レイアウトに適しています。さらに、国内メーカーならではの手厚いサポート体制もユーザーに安心感を与えています。

現場からは「初めてAMRを使うが操作が直感的で戸惑わない」「狭い工場でも導入でき、生産性が上がった」といった評価が寄せられました。デザイン段階で重視した安全性・操作性・拡張性が評価された結果と言えます。

特にUIタブレットで直感的に行先指示ができる操作画面や、複数台運用時に交通整理を行うフリート機能など、ソフト面の工夫もデザインの一部として高く評価されました。デザイン会社アドライズのケーススタディでも「視認性と印象が向上した」「図面作成まで対応してくれ助かった」とシナノケンシ側がコメントしており、製品コンセプトを損なわず完成度の高いデザインに仕上がったことが伺えます。

【産業ツール】Atlas Copco―疲れにくい電動工具の開発

https://www.atlascopco.com/ja-jp

スウェーデンのAtlas Copco(アトラスコプコ)社は、産業用組立工具や空圧機器の分野で世界をリードするメーカーです。近年、同社はエルゴノミクス(人間工学)に基づいた電動工具のデザインに注力しており、作業者の負担を軽減する数々の革新的製品を生み出しています。

その成果の一つが、新型のコードレストルクレンチやナットランナー(ねじ締め工具)で、手首への負担を減らす重量バランス設計や、握りやすさを追求したグリップ形状を特徴としています。これらの工具は性能のみならずデザイン面でも評価が高く、Red Dotデザイン賞など世界的アワードで「機能と美の融合」が認められています。

手首への負担を減らす重さのバランス

電動トルクレンチやナットランナーを一日中扱う組立作業では、作業者の手首や腕に大きな負担がかかります。Atlas Copcoはこの負担を軽減するため、製品の重量配分(ウェイトバランス)を最適化しました。

例えば最新のコードレスナットランナー「ITB-P」(Tensorバッテリーツール)では、バッテリーとモーターの配置を工夫し、手元で感じる重量の偏りをなくしています。これにより、重量配分が手首へのストレスを軽減し、長時間の使用でも疲れにくくなっています。

従来品と比べて手首にかかるモーメントが小さくなるよう重心位置を握り手に近づけ、さらに工具自体を軽量化(例えば14Vバッテリー搭載でも全体が軽い)しています。Red Dot賞の評価コメントでも「このナットランナーの重量配分が手首への負担を減らしている」と指摘されており、デザインが作業者の安全・健康に寄与している点が評価されています。

加えて、ねじ締め時に反作用トルクが手に伝わらないよう低反動機構も設けられており、これも人間工学的デザインの一つです。このようなアプローチにより、Atlas Copcoの組立工具は「力強いのにソフト」という特性を実現し、現場から「以前より手首が痛くならない」「女性作業者でも扱いやすい」と好評を得ています。

人間工学に基づいた握りやすさの追求

Atlas Copcoの産業用工具は、グリップ部分の形状や太さ、ボタン配置に至るまで人間工学的な最適化が図られています。例えばITB-Pナットランナーでは、持ちやすいピストル型ハンドルを採用し、トリガーや各種スイッチ類を指が自然に届く位置に配置しています。

グリップ径も手の大きさに合わせて細身に設計され、表面には滑り止めのテクスチャ加工が施されています。またディスプレイ画面をハンドル上部に配置することで、作業中でも視線移動少なく状態確認できるようになっています。

光と振動(光学・触覚フィードバック)による信号機能も搭載され、正しく締め付けできたかを直感的に把握可能です。これらはユーザーの使いやすさを第一に考えたデザインの成果です。

製品設計段階で何人もの現場作業者の動作解析やモックアップによる握り心地テストが行われ、最も疲れにくくミスを減らせる形状に磨き上げられました。Atlas Copcoのデザイナーは「設計においてはオペレーターの安全とUX(ユーザーエクスペリエンス)に注力した」と述べており、安全かつ簡単に使える工具を目標に据えていました。その結果、初心者でも直感的に扱える容易さと、熟練者にはより快適で精確な操作を提供する高い操作性が両立しています。

Red Dot賞が認めた機能と美しさの融合

Atlas Copcoのこれら産業用工具は、国際的なデザイン賞でも高く評価されています。特に2023年および2025年のRed Dotデザイン賞受賞は大きなトピックでした。2023年にはハンドヘルド型のナットランナーが受賞し、2025年には新型トルクレンチ「MTRwrench」が受賞しています。

審査員からは「オペレーターの安全性とユーザー体験に焦点を当て、安全で使いやすい工具を開発した」点が評価されました。また、2025年受賞のMTRwrenchについては「現代の生産現場が求める効率性・信頼性・環境性能を満たす製品だ」と称賛されています。

Red Dotの公式講評では、特に2025年の受賞製品群に対し「美しい美学と機能性を兼ね備えている」とコメントされました。ITB-Pナットランナーの審査講評では「実用本位のツールに審美的要素を統合した」と述べられており、プロダクトデザインとしての完成度の高さが認められています。

見た目の洗練さ(例えばAtlas Copco製品に共通するブラックとアクセントイエローの配色やソリッドなフォルム)は、同時に操作性や安全性という実利も兼ね備えている点が評価のポイントです。機能と美の融合こそが、Atlas Copcoのデザイン戦略の肝と言えます。

【農業機械】ヤンマーYT3―かっこいいトラクターが農業を変える

https://www.yanmar.com/jp/agri/products/tractor/yt3r

ヤンマー株式会社の「YT3シリーズ」トラクターは、日本の農業機械デザインにおける象徴的な存在です。工業デザイナー奥山清行氏(KEN OKUYAMA DESIGN)が手掛けたその革新的なスタイリングは、「農業機械=地味で無骨」という従来のイメージを一新しました。

スポーツカーを彷彿とさせる流麗なボディと、機能美あふれる造形を併せ持つYT3シリーズは市場で話題を呼び、2016年度のグッドデザイン金賞に輝いています。これは農業機械として異例の快挙であり、日本のみならず海外からも注目を集めました。さらにヤンマーはこのトラクターを活用し、子供たちに農業の魅力を伝えるための展示施策など未来戦略にも力を入れています。

奥山清行氏が手掛けた斬新なデザイン

YT3シリーズのデザイン開発は、フェラーリ等のデザインで知られる奥山清行氏が率いるKEN OKUYAMA DESIGNによって行われました。コンセプトは「日本の農業の新しい姿を提案するトラクター」であり、単に外観を格好良くするだけでなく農作業そのものに誇りと喜びをもたらすことを目指していました。

具体的なデザイン特徴として、流線型で躍動感のあるフロントマスク、大胆な曲面で構成されたボンネット、広いガラス面で開放感のあるキャビンなどが挙げられます。これまでのトラクターにはないエレガントさと力強さを両立した造形は、「高級SUVかスポーツカーのよう」と評されました。

奥山氏自身も「農業に誇りと憧れを持ってほしいという想いでデザインしてきた」と語っており、デザイナーの熱意がプロダクトに反映されています。さらにYT3は見た目だけでなく操作性・快適性・基本性能も向上させている点が特徴です。

例えば、一体プレス成型によるキャビン構造で視界を広げ、長時間運転しても疲れにくいレイアウトに刷新しています。操作レバー類も人間工学的に配置し直し、運転負荷を軽減しました。これらの改良は「デザインによって作業性も高めている」として審査員から高評価を得ました。

グッドデザイン金賞受賞がもたらした影響

YT3シリーズは2016年度グッドデザイン賞で金賞(経済産業大臣賞)を受賞しました。応募総数4,085件の中から特に優れたデザインに贈られる栄誉で、農業機械としては異例の受賞です。

審査委員は「所有する喜びや農業への誇りを感じさせたいという想いで、農機のデザインに新方向性を示した」と評価コメントしています。従来とは一線を画す外形デザインが人目を引くだけでなく、基本性能の向上、一体プレスキャビンによる広視界、操作系レイアウト見直しによる作業性向上など、デザインが本来解決すべき課題に取り組んでいる点が評価されました。

この受賞の影響は大きく、メディアでも「ヤンマーのトラクターが金賞」と報道され、一般にも農業機械のデザインに関心が向けられました。ヤンマーの幹部は「商品のデザインに加え、農業にデザインを持ち込んだこと自体を評価いただけた」と喜びのコメントを出し、次世代農家が誇りを持って農業に取り組める商品化を目指した成果だと述べています。

YT3のスタイリッシュな姿は若い農業従事者や新規就農者から「乗っていて気分が上がる」「友人に自慢できる」と好評を博しました。金賞受賞を機に、「農業機械もデザインで選ぶ時代」が来たとの声もあり、業界全体にデザイン重視の機運を高めるきっかけとなりました。

子供向け施設での展示が狙う未来戦略

ヤンマーはYT3トラクターのデザインを単なる製品価値向上に留めず、農業のイメージ改革につなげる包括的な活動を展開しています。その一環が、子供向けの体験施設へのトラクター展示です。

例えば滋賀県にあるヤンマーミュージアムでは、最新のトラクターやショベルカーに触れたり乗ったりできるコーナーを設置し、子供たちが農業機械に親しめるよう工夫しています。また東京駅近くに開設された「ヤンマー米ギャラリー」でも、YT3シリーズの実機や模型が展示され、都会の子供たちがお米作りと最新農機に触れ合える場を提供しました。

これらの取り組みについて、グッドデザイン賞の審査講評でも「子供向け娯楽施設への出展など、ヤンマーは農業に対する新しいイメージづくりに包括的に取り組んでいる」と言及されています。デザイナーが農業分野に関与していることに対し、他分野の審査委員からも賛同があったとも記されており、産官学でこの活動が評価されている様子が窺えます。

ヤンマーの狙いは、かっこいいトラクターを見て育った子供たちが将来農業に憧れを持つようになることです。ミュージアムに来館した子供たちが「将来このトラクターに乗りたい!」と目を輝かせる姿も見られます。YT3シリーズの展示は彼らにとって農業=先進的でクールな仕事という刷り込みになっているかもしれません。

産業機器におけるデザインの効果と重要性

7社の事例を見てきましたが、共通して浮かび上がるのは「デザインがもたらす効果の大きさ」です。単なる見栄え向上に留まらず、操作性の向上やブランド価値の向上、さらにはユーザーの感情的価値の創出にまでデザインが貢献していることが分かります。

産業機器におけるデザインは、年々その重要性を増しています。性能を追求するだけでなく、人を中心に据えたデザインを取り入れることで、競争優位を築き持続的な成長を遂げた企業が今回紹介した7社です。

操作性向上による現場の生産性改善効果

デザインが直接もたらすメリットとしてまず挙げられるのは、機器の操作性や使い勝手の向上です。人間の視点に立って設計し直すことで、ミスの減少や作業時間の短縮といった生産性向上につながります。

例えば島津製作所のAutoAmpでは曲面筐体とわかりやすいUIにより誰でも簡単にPCR検査が行えるようになり、Ambu社の内視鏡ではシングルユース化で煩雑な洗浄作業が不要になりました。東伸のスリッターeS!はアイコン操作と全方位警告灯で現場のヒューマンエラー防止に役立っています。

シナノケンシのAMRは角の丸い安全設計と直感的なタブレット操作でスムーズな協働作業を可能にしました。デザインを通じて操作体系やインターフェースを磨き込んだ成果です。現場の作業効率が上がれば生産性が向上し、ひいては企業の収益にも貢献します。「使いやすさ」は大きな競争力であり、デザインはその実現に不可欠な役割を果たします。

ブランドイメージ向上と市場での差別化実現

優れたデザインを持つ製品は、それ自体がブランドの象徴となり得ます。ヤンマーYT3の例では、美しいトラクターが「プレミアムなブランド」としてヤンマーの企業イメージを高めました。関東精機PUREMATICはLED演出で新ブランドの存在感を示し、展示会で差別化に成功しました。

Atlas Copcoの工具は黒と黄色の洗練された統一デザインで技術力と信頼性の高さを演出しています。デザインは製品の個性を際立たせ、市場で埋没しない存在にします。

特に産業機器分野では競合製品同士が性能的に拮抗することが多いため、デザインの良し悪しが選択の決め手になる場面が増えています。またデザイン性の高い製品を持つこと自体が企業の先進性や顧客志向の表れとなり、ブランド全体の価値向上につながります。

結果として価格競争に陥りにくくなり、多少高価でも「これを選びたい」と思わせる力を持ちます。産業機器メーカーがデザイン戦略を重視するのは、単なる見た目以上にブランド競争力と市場差別化に直結するためです。

所有する喜びと満足感を生み出す付加価値

最後に見逃せないのが、デザインがユーザーにもたらす感情的な付加価値です。良いデザインの機器を扱うことは、ユーザーに喜びや誇りを与えます。ヤンマーのコメントにも「誇りを持って農業に取り組めるようにとの思いを込めた」とあるように、美しいトラクターは農家の仕事へのモチベーションを高めました。

またAtlas Copcoの工具を使うエンジニアは、「先端的なツールを使いこなしている」という自負心を持つでしょう。シナノケンシのAMRと一緒に働く現場では、ロボットが頼もしい相棒となり作業者の満足度を上げています。

さらに、Ambuの使い捨て内視鏡は患者にも安心感を与え、医師にも「最新の安全な医療を提供できている」という満足感をもたらしました。デザインは機械と人との関係性を豊かにし、単なる道具以上の愛着や信頼を生みます。

所有すること・使うこと自体が喜びとなれば、ユーザーエクスペリエンスが向上しリピーターやファンを生み出します。産業機器の世界でも、この「エモーショナルな価値提供」がビジネス上重要になってきています。デザインの力でユーザーの心を動かし満足させることが、長期的な顧客ロイヤルティにつながります。