バス・トイレタリー用品の開発において、消費者が最も重視する購買決定要因の一つが「清潔感」です。しかし、デザインの現場において「清潔感」とは、単に製品を白くしたり、形状をシンプルにしたりするだけでは達成できません。
高温多湿な環境下でもカビやヌメリを防ぐ「機能的な清潔さ」と、ユーザーが直感的にきれいだと感じる「情緒的な清潔感」。この両立には、材料特性や成形技術への深い理解に基づくデザインエンジニアリングの視点が不可欠です。
本記事では、バス・トイレタリー製品における清潔感を創出するための具体的な設計手法、CMF(色・素材・仕上げ)戦略、そして製品開発を成功に導くための工業デザイン事務所への相談のポイントについて解説します。
1. バス・トイレタリーにおける「清潔感」を因数分解する
製品開発の現場で頻出する「清潔感のあるデザイン」という要望。しかし、その定義は曖昧になりがちです。私たち83Designでは、清潔感を以下の3つの階層(レイヤー)に分解して定義し、それぞれに対して具体的なエンジニアリングとデザインのアプローチを行います。
これら3つが揃って初めて、ユーザーは真の「清潔感」を実感します。
| 階層 | 定義 | 具体的なデザイン要件 |
| 1. 物理的清潔感 (Functional Cleanliness) | 実際に汚れにくく、洗いやすい構造を持っていること。 | 形状設計・機構設計 ・水切れの良い勾配(ドラフト) ・カビの温床となる「隅」の排除 ・ヌメリを防ぐ通気構造 |
| 2. 視覚的清潔感 (Visual Cleanliness) | 見た目に汚れが見えにくい、あるいは汚れていないように見えること。 | CMFデザイン ・水垢(カルキ)が目立たない表面処理 ・変色や黄ばみに強い素材選定 ・清潔な印象を与えるカラーリング |
| 3. 心理的清潔感 (Psychological Cleanliness) | 触れたときに「衛生的だ」「安心だ」と感じられる信頼感。 | UX・ブランディング ・バリのない滑らかな肌触り ・中身が見える(隠し事がない)透明性 ・堅牢な作りとブランドの佇まい |
Note: どれか一つでも欠ければ、ユーザーの不満(クレーム)や早期の買い替えにつながるリスクとなります。
2. 【形状設計】メンテナンス性を最大化する「水を留めない」デザイン
バス用品において、最大の敵は「水」です。水が留まる場所には必ず菌が繁殖します。したがって、形状デザイン(Form)における最優先事項は、徹底して「水を留めないこと」に尽きます。
重力と表面張力をコントロールする傾斜設計
製品のあらゆる面に、水が自然に流れ落ちるための適切な勾配(ドラフト)を設ける必要があります。
例えば、シャンプーボトルの肩部分や、バスチェアの座面が水平に近いと、そこに水滴が残留し、乾燥後に頑固なカルキ汚れ(水垢)となって白く残ります。工業デザインでは、見た目の美しさを損なわない範囲で数度の傾斜を設けたり、表面張力で水玉になりやすい曲率を計算してR(アール)を設計したりします。
「隅」をなくすR(曲面)の活用
汚れが最も溜まりやすいのは、面と面が交わる「角(入隅)」です。直角なコーナーはスポンジが届きにくく、カビの温床となります。
メンテナンス性を高めるためには、すべての入隅に適切な大きさのR(フィレット)を設けることが鉄則です。特に、指やスポンジがスムーズに滑るような連続性のある曲面(G2連続など)を用いることで、ユーザーは「拭き取りやすさ」を直感的に感じ、掃除のストレスを軽減できます。
一体成型による継ぎ目の排除
複数の部品を組み合わせる構造は、部品同士の隙間(パーティションライン)に汚れが入り込む原因となります。
可能な限り「一体成型」でデザインすることが、清潔感の向上に寄与します。例えば、取っ手と本体を別部品にするのではなく、インサート成形やガスアシスト成形などの技術を用いて一つのパーツとして成立させることで、溝のない滑らかな製品が生まれます。これには金型設計の知識と、製造要件(Feasibility)を考慮した高いデザイン力が求められます。
▼ デザインエンジニアリングによる課題解決例
| 設計要素 | 従来の課題 | デザインエンジニアリングによる解決策 |
| 面構成 | 水平な面が多く、水滴が残留する。 | 重力を利用した微細な傾斜と、水切れの良い曲面構成。 |
| コーナー | 直角な入隅があり、掃除しにくい。 | 指やスポンジが届く大きなR(曲面)処理。 |
| 部品構成 | 複数のパーツ分割による継ぎ目(溝)がある。 | 一体成型や二色成形によるシームレスな構造。 |
| 裏面構造 | 強度確保のための複雑なリブ(補強)がある。 | 形状そのもので強度を出し、リブを減らして洗いやすくする。 |
3. 【CMF戦略】汚れを寄せ付けない素材と仕上げ
形状が決まったら、次は表面の質感をどうするかです。バス・トイレタリー製品において、CMF(Color, Material, Finish)は単なる装飾ではなく、防汚機能そのものです。
素材(Material)の選定:透明度と耐性のバランス
樹脂素材の選定は、「透明度」「耐衝撃性」「耐薬品性(洗剤やアルコールへの耐性)」のバランスで決まります。
- PET(ポリエチレンテレフタレート)
- 特徴: 透明度が高く、高級感がある。ガラスのような美しさを持ちながら割れにくい。
- 用途: ディスペンサーボトルなど。
- PP(ポリプロピレン)
- 特徴: 耐薬品性と耐熱性に優れ、軽量。安価だが、表面の光沢感や透明度はPETやアクリルに劣る。
- 用途: バスチェア、洗面器など。
- PMMA(アクリル樹脂)
- 特徴: 非常に高い透明度と硬度を持つ。高級感の演出に最適。
- 注意点: アルコールなどの薬品に弱い場合があるため、使用環境に応じたグレード選定が必須。
仕上げ(Finish)による汚れ対策
表面処理には大きく分けて「鏡面(グロス)」と「梨地(シボ・マット)」があります。それぞれの特性を理解し、使い分けることが重要です。
- 鏡面加工(グロス)
- 高級感があり、素材の透明感を活かせますが、指紋や水垢、小傷が目立ちやすいという欠点があります。
- シボ加工(テクスチャ)
- 表面に微細な凹凸をつけることで、傷や汚れを目立ちにくくし、肌触りを良くします。
- 注意点: 凹凸が深すぎると逆に汚れが溜まりやすくなるため、バス用品には浅く滑らかな「サテン仕上げ」のような微細なシボが適しています。
83Designでは、製品のコンセプトに合わせて最適なCMFを提案するために、詳細な「CMF指示書」を作成し、製造現場との認識齟齬を防ぎます。特に「汚れにくさ」と「質感」のトレードオフをどう解消するかが、デザイナーの腕の見せ所です。
カラー(Color)と心理効果
「清潔感=白」という定説は根強いですが、白は汚れ(特にカビや髪の毛)が目立ちやすい色でもあります。
近年では、グレーやベージュなどのニュアンスカラーが人気です。これは、インテリアに馴染むという理由に加え、多少の水垢や石鹸カスが付着しても目立ちにくいという実用的なメリットがあるためです。また、透明や半透明(トランスルーセント)の素材は、「中身が見える(隠し事がない)」という心理的な清潔感と、残量確認という機能を両立させることができます。
4. 【UXデザイン】「使う」だけでなく「管理する」体験まで設計する
現代のバス・トイレタリー製品には、「使う時」だけでなく、「使わない時(保管時)」や「手入れする時」を含めたトータルなユーザー体験(UX)のデザインが求められます。
トレンドに対応する「浮かせる収納」
近年、浴室の掃除を楽にするために、床や棚に物を置かず、壁にマグネットで貼り付けたり、タオルバーに吊るしたりする「浮かせる収納」がトレンドです。
これに対応するため、製品自体にフックを一体化させたり、背面に強力なマグネットを埋め込んだりするデザインが増えています。この際、マグネット部分が錆びないように樹脂で完全に覆うインサート成形を行うなど、使用環境を考慮した技術的な配慮が必要です。
「STAIRS UP」で解く、詰め替え(リフィル)のストレスフリー化
SDGsの観点から詰め替え製品の利用が一般的ですが、詰め替え作業は「こぼれる」「面倒」「洗って乾かすのが大変」というペイン(悩み)を伴います。
ここで有効なのが、83Designが提唱する「STAIRS UP(ステアーズアップ)」という仮説生成フレームワークです。これは、ユーザーの課題(Desirability)を細かく分解し、技術的実現性(Feasibility)と事業性(Viability)の観点から解決策を積み上げていく手法です。
- 課題分解: 「こぼれる」原因は何か? → 口径が狭いから? パウチが不安定だから?
- 解決策(仮説): 口径を広くして洗いやすくする、詰め替えパウチをそのままセットできる構造にする、あるいは残さず使い切れる底面形状(すり鉢状など)にする。
このようにユーザーの行動プロセス(Action)を細かく分析し、ストレスを解消する機構をデザインに落とし込みます。
5. 83Design流・デザインエンジニアリングのアプローチ
私たち83Designがバス・トイレタリー用品のデザインを行う際、特に重視しているプロセスをご紹介します。
1. 現場起点の課題発見(JUMP)
デザイナー自身の生活体験や、ユーザー観察から得られた直感的な気づきを、私たちは「JUMP(ジャンプ)」と呼んでいます。「なぜバスチェアの裏側はすぐにカビるのか?」「なぜディスペンサーのポンプは押しにくいのか?」といった素朴な疑問(思い込みや仮説)からスタートし、既存製品の常識を疑い、あるべき理想の姿を一気に描き出します。
2. プロトタイピングによる「水」の検証
CAD上のデータやレンダリング画像だけでは、実際の水切れの良さや、濡れた手で持った時の滑りやすさは判断できません。
私たちは開発の早い段階から3Dプリンターや簡易金型を用いてプロトタイプを作成し、実際に水場での検証を行います。水がどのように表面を流れるか、泡がついた手でポンプを押せるかといった「フィジカルな検証」を繰り返すことで、製品化後のトラブル(偽陰性のリスク)を排除します。
3. 製造要件(Feasibility)と意匠(Desirability)の統合
どんなに美しい形状でも、量産できなければ意味がありません。特にバス用品はコスト競争が激しいため、成形サイクルを短縮できる形状や、金型点数を減らす工夫が求められます。
83Designにはエンジニアリングの知見を持つデザイナーが在籍しており、デザイン提案の段階から、抜き勾配、肉厚、ゲート位置などの製造要件を考慮した設計を行います。これにより、試作段階での手戻りを減らし、スムーズな量産移行を実現します。
6. 工業デザイン事務所に相談するメリットとタイミング
自社で企画・開発を行っているメーカー様の中には、「機能には自信があるが、デザインが垢抜けない」「新しいカテゴリに参入したいが、知見がない」といった悩みを抱えているケースが少なくありません。
相談によって得られる3つの価値
- 客観的な視点とトレンドの導入
- 社内だけでは凝り固まりがちな視点に対し、異業種(家電や家具など)のデザイン知見や、最新のインテリアトレンドを取り入れた提案が得られます。
- 具体化力の向上
- 「清潔感のある感じ」といった抽象的な要望を、具体的な形状、素材、加工方法に翻訳し、仕様書や3Dデータとして可視化できます。
- 開発スピードの加速
- 企画から量産立ち上げまでのプロセスを熟知したプロが伴走することで、意思決定の迷いを減らし、手戻りを防ぐことができます。
相談すべき最適なタイミング
最もROI(費用対効果)が高いのは、「企画の初期段階(Phase 1: 着想)」です。「何を作るか」が固まりきっていない段階で相談することで、ターゲットユーザーの特定や、競合との差別化ポイントの整理(競合アリーナ分析)から一緒に取り組むことができます。
もちろん、具体的な仕様が決まった後の「意匠設計」のみの依頼も可能ですが、デザインによるイノベーションを起こすなら、上流工程からの参画をおすすめします。
7. まとめ:技術を「愛される製品」へ昇華させるために
バス・トイレタリー用品における「清潔感」とは、見た目の美しさだけでなく、水切れのよい形状、汚れにくい表面処理、そして使いやすさを考慮したトータルな設計によって実現されます。これらの要素を高度にバランスさせるには、工業デザインの専門的な知見が不可欠です。
自社の技術やアイデアを、より魅力的な製品として市場に送り出したいと考えているなら、ぜひ一度、工業デザインのプロフェッショナルに相談してみてください。第三者の視点が入ることで、これまで見過ごされていた課題が解決し、新たな市場価値が生まれるはずです。
工業デザインの基礎知識や、他の製品分野での事例については、以下のピラーページで詳しく解説しています。
関連記事
本記事で解説したテーマについて、さらに詳しく知りたい方は以下の記事もあわせてご覧ください。
- 雑貨・日用品の優れたデザイン事例13選 ― 機能と美しさの融合
- キッチン用品のデザイン
- [🔗リンク予定: 清掃用品のデザインと収納性]
- [🔗リンク予定: 83Designのオリジナルプロダクトについて]
【お問い合わせ】
バス・トイレタリー用品のデザイン開発、または工業デザインに関するご相談は、以下のフォームよりお気軽にお問い合わせください。デザインの力で、御社の製品に新たな価値を付加します。
お問い合わせ先:https://83design.jp/contact