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元KOKUYO同期の経営者二人が語る、経営とデザインの共通項
経営学とデザインは、別の領域に見えて、実はとても近いところで重なっている。
大学で「商品企画」を教える奥角翼氏と、83Designの矢野宏治。
コクヨ時代の同期である二人が、経営を学ぶ学生たちに向けて伝えているのは、デザインの技術ではなく、「視点」や「考え方」。
ビジネスとデザインは、どこで交わり、何が共通しているのか。
同期ならではの距離感で語られた対話を、そのままのかたちでお届けします。

── 奥角さんは、この大学で講義をされて6年目と聞きました。最初のきっかけを教えてください。
奥角(以下敬称略):この大学がある自由が丘で、まちづくりや「まちをよくする活動」をしています。
イベントやアート系の企画をやったり、地域のためのお酒をつくったり。店舗は二つあって、1929年から続く写真館が僕のルーツです。
その経営をしながら、コーヒースタンドと焙煎所も運営しています。
大学との関わりは、もともと地元でイベント企画をする授業に、商店街側の人間として講師で入っていたのがきっかけでした。その流れで「この枠で、もう少し時間を使った授業をやってくれませんか?」と声をかけてもらって、それが今の経営学部の「商品企画」の授業です。もう6年目になります。

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── 矢野さんに講師を依頼した理由を教えてください。
奥角:「マーケット分析と商品企画」という授業で、全14回あるんですが、この授業には毎年デザイナーに来てもらっています。
ただ「かっこいい形をつくる」ではなくて、「なぜそうしたのか」「どんな視点で考えているのか」、そういう話ができる人に来てほしい。
もう一つ大事にしているのが、クライアントワークだけじゃなくて、自分でものづくりをしていることです。商品企画の授業なので、「自分で何かをつくりたい」という視点を持っている人がいい、ということ。
矢野くんは、83Designでクライアントワークをしながら、オリジナルプロダクトもずっとやっている。サラリーマンの時から副業で続けていて、今も現役。
この二つを両立しているデザイナーって、実は意外と少ないんですよね。

── 矢野さんは、経営学部の学生さんに向けた講義の依頼を受けて、最初どう感じましたか?
矢野:経営学部の中に「商品企画」という授業があるのが、まず面白いなと思いました。これまでは、デザインを学びに来ている学生向けに教えることが多かったので、「経営」を学ぶ学生に、何を伝えたらどんな反応が返ってくるんだろう、って。
分野は違っても、「何かをつくり出したい」という気持ちは一緒だと思っていて。伝えたことに対して、どんな反応があるのか、そこに興味がわきました。
── 奥角さんがこの授業で学生さんに一番伝えたいことは何ですか?
奥角:そうですね、どう「視点」を持つか、ということですね。消費者、買う人のためにつくるということはどういうことか、ということ。
「買いたくなる」「欲しいと思う」「使いやすいと思う」そういう反応を生むために、相手の気持ちをどこまで想像できるかが大事だと話しています。もちろん、「めちゃくちゃかっこいい」「これは面白い」みたいな、アートに近いものをつくるのも全然いいと思う。でも、どこかに「買ってもらいたい」という気持ちがあるなら、相手が一人であろうが大勢であろうが、購入してくれる相手を意識する必要がある。
よく言うのは、「お金さえ積めば、作ることはできる。でも、売るっていう行為のほうが難しいよ」って。
矢野:いやー、わかるなー…俺にとっては、作るより売るほうがずっと難しい(笑)。

── ビジネスの最前線から見て、経営学部の学生さんがデザインを学ぶことをどう捉えていますか?
矢野:フレームワークを使って分析して、その情報をもとに仮説を立てて商品企画をつくる。分析された情報を、有機的につなげて処理していく。その行為自体は、ほぼ「デザイン」だと思っています。
それが言葉としてアウトプットされるか、形としてアウトプットされるかの違いだけで。だから、経営学部の学生さんがデザインを学ぶことも、特別なことじゃないと思います。
奥角:定性的で曖昧な内容を、具体的な数字にしていく。そのために、どんな仮説を持って、どう検証するかを考える。その部分は、デザイナーのほうが得意なケースも多い気がします。
矢野:デザイナーって、妄想が得意な人が多いですからね。
── 「妄想」という言葉が出ましたが、それについてはどう考えていますか?
矢野:結果が出るまでは、全部「妄想」とも言える。だからこそ、確度の高い妄想にしていくことが大事だと思っています。
ただ、「結果が出るまで妄想」って言葉は、捉え方がいろいろあるので、使い方は気をつけないといけないですね。
── コクヨ時代と今を比べて、デザイナーの役割は変わったと感じますか?
矢野:時代によって変わった、というより、商品カテゴリーによって役割が変わると思っています。家具や文具は、構造イコール機能になっている。一方で家電は、内部の構造を工夫できる余地がある。何をデザインするかで、デザイナーがどのタイミングから関わるかは変わります。

── 奥角さんは、6年間教える中で、変化を感じていますか?
奥角:正直に言うと、自分はあまり変わることができていないな、と思っています。
でもこの授業で伝えている「視点」の話は本質とも言えるので、そう簡単には変わらないとも思います。
一方で、コミュニティづくりのような活動は、人をいろんな角度からつなげていく仕事なので、そこは変化してきていると感じます。
授業では、ものづくりの価値観が時代によって変わってきた、という話をしています。高度経済成長期のものづくりの話や、ガラケーとかデジカメ、とか、昔のプロダクトの話をすることに意味があるのか迷うこともありますが、今が変化の途中だからこそ、比較すること自体に価値があると思っています。

── 最後に、講義を受ける学生さんたちに持ち帰ってほしいことは何ですか?
矢野: 講義では「欲」と「美意識」の話をするんだけど、その二つの扱い方、かな。
この二つは、ものを作る原動力だと思う。「こうしたい」という欲は言葉にしやすいけど、「美意識」を言語化して相手に伝えるには技術がいると思う。これからAIなどが発達する時代において、その人自身の「美意識」や「何が良いと思うか」という基準がより一層求められるようになると思います。
奥角:経営学部の学生にとって、現役のデザイナー、それも自分でオリジナルの物づくりをしている人と触れ合う機会は少ないです。 社会に出た時に、周りの同僚とは違う「視点」を持てることの貴重さを知ってほしい。 今日の講義を通して、デザイナーという職種の人がどういう目で世界を見ているのか、その「視点の違い」を面白がって、何か一つでも持ち帰ってくれたら嬉しいですね。