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サービスデザインの定義と5つの基本原則|モノからコトへ価値を広げる実践ガイド


今日のビジネスにおいて、優れた製品(モノ)を作るだけでは、もはや市場で勝ち残ることは難しくなっています。顧客は製品そのものではなく、それを通じて得られる「体験」や「成果」に対価を払うようになっているからです。

ここで重要になるのがサービスデザインという考え方です。これは、顧客が見える部分だけでなく、それを支える裏側の仕組みや組織までを含めて全体を設計するアプローチです。

私たち83Designは、工業デザインをルーツに持ちながら、「Form to Unseen(見えないものを形にする)」という思想のもと、事業開発のパートナーとして多くのプロジェクトに携わってきました。本記事では、サービスデザインの正確な定義、実践に不可欠な5つの原則、そして製造業やプロダクト開発においてサービスデザインがなぜ重要なのかを、現場の実践知を交えて解説します。


サービスデザインとは何か?(定義とUXとの違い)

サービスデザインとは、顧客体験(ユーザーエクスペリエンス)の質を向上させるために、人(顧客・従業員)、インフラ、コミュニケーション、物的要素(プロダクト)といったサービスに関わるすべての要素を整理し、計画・設計することです。

単に「接客マナーを良くする」「アプリのUIを改善する」といった部分的な最適化ではありません。「顧客がサービスを知り、利用し、利用を終えるまでの全プロセス」と「それを提供するために必要な企業のオペレーション」の両方を、包括的にデザインします。

UXデザインやプロダクトデザインとの違い

「UXデザイン」や「プロダクトデザイン」と混同されがちですが、その対象範囲と視点には明確な違いがあります。これらは対立するものではなく、サービスデザインという大きな枠組みの中に包含される要素です。

表1:デザイン領域の違いと相互関係

項目サービスデザインUXデザインプロダクトデザイン
対象範囲サービス全体
(顧客体験 + 提供側のオペレーション・組織・収益構造)
顧客体験
(主にユーザーとの接点・感情・認知)
製品そのもの
(形状、機能、仕様、CMF)
視点ホリスティック(全体俯瞰)
ビジネスモデルと体験の整合性を重視
ユーザー中心
使いやすさや心地よさを重視
ユーザー中心 + 技術要件
製造実現性と審美性を重視
舞台フロント + バックステージ
顧客が見る表舞台と、企業側の裏舞台
主にフロントステージ
アプリ画面や利用シーン
物理的な製品
ハードウェア、筐体、インターフェース
成果物カスタマージャーニーマップ
サービスブループリント
エコシステムマップ
ペルソナ
ワイヤーフレーム
プロトタイプ(体験)
3Dモデル、レンダリング
量産仕様書
CMF指示書

83Designでは、これらを分断して考えることはありません。優れたUXを実現するためには、それを支えるビジネスの裏側(バックステージ)の設計が不可欠であり、最終的には確かな手触りを持つプロダクト(エビデンス)への落とし込みが必要だからです。

関連記事:サービスデザインとプロダクト開発


サービスデザインの「5つの基本原則」

サービスデザインの実践において、世界的な共通認識となっているのが、Marc Stickdornらが提唱した「5つの原則」です。これらは、単なるスローガンではなく、複雑な事業課題を整理するための羅針盤となります。

  1. ユーザー中心(User-centered)企業側の都合や技術的制約から出発するのではなく、「ユーザーがどう感じるか」を出発点にします。定性的なインタビューや行動観察を通じて、潜在的なニーズを掘り起こします。
  2. 共創(Co-creative)デザイナーや一部の企画者だけで完結させません。顧客、従業員、経営層、エンジニアなど、すべてのステークホルダーをプロセスに巻き込み、共に創り上げます。
  3. シーケンシング(Sequencing)サービスを「点」ではなく、一連の「時系列(シークエンス)」として捉えます。利用前(プレサービス)、利用中(サービス)、利用後(ポストサービス)のリズムや展開を映画のように設計します。
  4. エビデンス(Evidencing)目に見えないサービスを、目に見える形(物的証拠)にします。ここが製造業における重要ポイントです。どれほど崇高なサービス概念があっても、顧客が触れるデバイスや空間がチープであれば、体験の質は損なわれます。
  5. ホリスティック(Holistic)全体論的であること。サービスのあらゆる側面(物理的環境、デジタル接点、人の対応など)をシステム全体として捉え、整合性を取ります。

なぜ「エビデンス(可視化)」が重要なのか

特にBtoBメーカーやハードウェア開発においては、4つ目の「エビデンス」が極めて重要です。

例えば、高度な遠隔医療サービスを設計したとしても、患者が手にするデバイスが「冷たくて怖い印象」を与えたり、操作が直感的でなければ、サービス全体の信頼性は崩壊します。目に見えない「安心」や「信頼」といった価値を、筐体のCMF(色・素材・仕上げ)やUIの挙動といった物理的な手触りに変換することこそが、工業デザインの役割です。

関連記事:工業デザインの実績と選ばれる理由


サービスデザインを実践するための主要ツール

サービスデザインは抽象的な概念を扱うため、チーム全員の認識を揃えるための「共通言語化ツール」が不可欠です。ここでは、83Designのプロジェクトでも頻繁に使用する代表的な手法を紹介します。

表2:主要ツールとその役割

ツール名主な目的活用フェーズ83Designでの活用視点
共感マップ
(Empathy Map)
ユーザーの深層心理・インサイトの理解調査・定義ユーザーの「Pain(悩み)」と「Gain(期待)」を明確にし、技術シーズとニーズの接点を探る。
カスタマージャーニーマップ体験プロセスと課題の可視化定義・設計感情の起伏だけでなく、タッチポイントごとの「具体的なUI/UX要件」まで落とし込む。
エコシステムマップビジネス環境・ステークホルダーの把握戦略・ビジネスモデル検討自社の立ち位置、競合、パートナー関係を俯瞰し、ビジネスモデルの整合性を図る。
プロトタイピングアイデアの具体化と仮説検証設計・検証寸劇や紙芝居だけでなく、検証用ハードウェアを作成し、手触りを含めた体験を検証する。

特に重要なのが「プロトタイピング」です。サービスデザインの文脈では、寸劇(ロールプレイング)やストーリーボードが多用されますが、製造業においてはそれだけでは不十分です。

私たちは、検証のノイズ(雑音)を消すために、デザイン品質を高めた検証用プロトタイプを早期に投入します。「見た目が悪いから評価できない」という事態を避け、本質的な価値検証を行うためです。

関連記事:効果的なプロトタイピングと仮説検証プロセス


83Designのアプローチ:プロダクトとサービスの融合

多くの企業が「技術(シーズ)」を出発点にしてしまい、「誰のどんな課題を解決するサービスなのか」が置き去りになるケースが見受けられます。これを防ぐために、83Designでは以下の独自アプローチを用いて、サービスとプロダクトを統合的にデザインしています。

1. フィットジャーニー(Fit Journey)による段階的検証

サービスが市場に適合する(PMF: Product Market Fit)までには、いくつかの関門があります。いきなり完成品を作るのではなく、段階ごとに焦点を絞って検証を進めます。

  • CPF (Customer Problem Fit):そもそも顧客に課題が存在するか?
  • PSF (Problem Solution Fit):その課題に対する解決策は有効か?
  • SPF (Solution Product Fit):解決策は製品・サービスとして実装可能か?
  • PMF (Product Market Fit):市場に受け入れられるか?

2. 将来の製品群を可視化する(Future Casting)

サービスデザインは長期的な視点が必要です。現在の技術だけでなく、3〜5年後の社会変化や技術ロードマップを掛け合わせ、「将来あるべき製品ラインナップやサービス体験」をフォトリアルなビジュアルで先に可視化します。

これにより、経営層や投資家と具体的なゴールイメージを共有し、稟議や意思決定を加速させることができます。

3. UX要件と技術要件の同時定義

「素晴らしい体験(UX)」を定義するだけでは絵に描いた餅になります。83Designでは、UX要件(どう使われたいか)を定義すると同時に、それを実現するための技術要件や仕様策定をセットで行います。工業デザインの知見があるからこそ、実現可能性(Feasibility)と事業性(Viability)を踏まえた、地に足のついたサービス設計が可能です。

関連記事:工業デザイン×デザイン思考


まとめ

サービスデザインとは、顧客体験とそれを支えるビジネスの仕組みを全体最適化するための設計活動です。

  • 全体俯瞰:フロント(顧客体験)とバック(組織・仕組み)の両方をデザインする。
  • 5つの原則:ユーザー中心、共創、シーケンシング、エビデンス、ホリスティック。
  • 可視化:カスタマージャーニーやエコシステムマップで複雑な関係性を整理する。
  • 実現性:優れた体験には、それを支える優れたプロダクト(ハードウェア/UI)の実装が不可欠。

83Designは、工業デザインを核としながら、ビジネスモデルの構築からサービス体験の設計までを一貫して支援します。「技術はあるが事業化の道筋が見えない」「モノ売りからコト売りへ転換したい」とお考えの際は、ぜひご相談ください。

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