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収納家具のデザインにおける機能美 ― 工業デザイン視点で紐解く「使いやすさ」と「空間調和」の極意


収納家具の商品企画や開発現場において、多くの担当者が直面する根深いジレンマがあります。それは「収納力や耐久性といったスペックを追求すると、無骨な業務用品のようになってしまう」「デザイン性やスタイリングを優先すると、使い勝手が悪くなりクレームにつながる」という、「機能」と「美しさ」のトレードオフです。

市場には安価な収納用品から高級家具まで無数の製品が溢れています。その中で、顧客に選ばれ、長く愛される製品を生み出す鍵は、表面的な装飾ではなく、工業デザイン(インダストリアルデザイン)の視点に基づく論理的な設計にあります。

単なる「物を入れる箱」から、空間の質を高め、ユーザーの所作までも美しくする「機能美」を備えた収納家具へ。本記事では、工業デザイン事務所である株式会社83Designの視点から、収納家具開発におけるデザインエンジニアリングの役割、機能美を実現する具体的な技術要素、そして成功に導くための開発プロセスを徹底解説します。


収納家具における「機能美」の正体とは

収納家具における「機能美」という言葉は、しばしば「シンプルで美しい見た目」と誤解されがちです。しかし、工業デザインの文脈において、それはより多層的で工学的な意味を持ちます。

機能美とは、ユーザーが製品を使うという行為そのものがストレスなく行われ、その結果として現れる形態が必然的に美しい状態を指します。私たちは、収納家具の美しさを以下の3つの視点で定義しています。これらが高度に統合されたとき、初めて製品は「機能美」を宿します。

美の分類視点具体的な評価軸
静的な美
(Static Beauty)
空間との調和・建築モジュールとの整合性
・ノイズ(継ぎ目やネジ)の排除
・素材の質感とプロポーションの安定感
動的な美
(Dynamic Beauty)
動作の快適性・扉の開閉のスムーズさ
・引き出しの適度な重みとクリック感
・身体的負荷の少ない寸法設定
構造的な美
(Structural Beauty)
製造合理性・無駄のない部材構成
・板金加工や樹脂成形における強度の確保
・組み立てやメンテナンスの容易さ

1. 空間との調和(静的な美)

収納家具は、椅子やソファと異なり、使用されていない時間の方が圧倒的に長い製品です。そのため、空間に置かれた際の「佇まい」が極めて重要になります。建築空間のモジュール(尺貫法やメーターモジュール)に合致しているか、視覚的なノイズとなる要素(不要な分割線、目立つネジ穴、過剰な取っ手の出っ張りなど)が整理されているかが問われます。家具単体で主張するのではなく、「建築の一部」として空間に溶け込むデザインが求められます。

2. 動作の快適性(動的な美)

扉を開ける、引き出しを引く、物を探す、しまう。これらの動作が直感的に行え、かつ心地よいフィードバック(クリック感や適度な重み)があることは、製品の質感を決定づけます。人間工学に基づいた寸法設定はもちろん、ヒンジやレールといった金具の選定一つで、ユーザーが感じる「高級感」や「信頼感」は劇的に変化します。

3. 製造合理的であること(構造的な美)

無理な設計でコストを高騰させるのではなく、素材の特性を活かし、効率的な製造工程で実現できる形状であることも、工業デザインにおける重要な美学です。例えば、一枚の板金を曲げることで強度と意匠を両立させるような、構造そのものがデザインとなっている状態が理想です。


なぜ収納家具開発に「工業デザイン」の視点が必要なのか?

多くのメーカーにおいて、製品開発は「設計部門がスペック(寸法・機能)を決め、最後にデザイン部門が色や形を整える」というリレー形式で行われることが少なくありません。しかし、収納家具こそ、エンジニアリングとデザインが密接に関わるデザインエンジニアリングの領域です。

「仕様」と「体験」のギャップを埋める

R&D部門や設計者がスペック(収納容量、耐荷重、板厚)を先行して決めると、往々にして「頑丈だが圧迫感がありリビングに置けない」「たくさん入るが奥の物が取り出しにくい」といった製品になりがちです。これは「作り手の論理」が優先されているためです。

工業デザインは、ユーザーの利用文脈(Context)から逆算して仕様を決定します。「誰が、どのような生活シーンで、何をしまうのか」というUX(ユーザー体験)を起点にすることで、スペック数値だけでは測れない価値を創出します。

以下の表は、従来の開発手法と工業デザイン視点のアプローチの違いを整理したものです。

開発アプローチ従来の開発手法工業デザイン視点のアプローチ
出発点スペック・製造要件
(サイズ、コスト優先)
ユーザー体験・利用シーン
(何をどうしまうか)
優先順位収納効率 > 見た目使いやすさ = 美しさ > 収納効率
詳細設計既存部品の流用、作りやすさ優先操作感やノイズレスな外観を実現する
独自設計・部品選定
最終成果機能を満たした「箱」空間と調和し、生活を整える「インテリア」

ブランド価値の創出

市場には機能を満たすだけの安価な収納用品が溢れています。その中で選ばれる製品になるには、機能スペックを超えた「情緒的価値」が必要です。「触れた時の心地よさ」「開閉時の静音性」といった細部のデザインが、ブランドとしての信頼感や高級感を醸成し、価格競争からの脱却を可能にします。


機能美を実現する3つのデザインエンジニアリング要素

では、具体的にどのような要素をコントロールすれば、収納家具に機能美を宿らせることができるのでしょうか。ここでは、私たち83Designが重視している3つの技術的視点を解説します。

1. 構造とプロポーションの徹底的な整理

収納家具の美しさは「線の整理」に宿ります。要素を減らし、ノイズを消すことで、家具は建築の一部のように空間に溶け込みます。

  • チリ(隙間)の均一化
    • 扉と本体、引き出し同士の隙間を極限まで均一にします。数ミリの不揃いが、製品全体を安っぽく見せてしまいます。
  • 留め加工とテーパー処理
    • 板の厚みをそのまま見せると野暮ったくなる場合、端部を斜めにカット(テーパー加工)したり、45度で接合(留め加工)したりすることで、シャープで薄い印象を与えます。
  • ノイズの排除
    • ネジ頭が見えない組み立て構造(隠しジョイント等)の採用や、蝶番(ヒンジ)を外部から見えない位置に配置する工夫です。
  • グリッドシステム
    • 引き出しや扉のラインを揃え、視覚的なリズムを整えます。

2. CMF(色・素材・仕上げ)による質感設計

CMFとは、Color(色)、Material(素材)、Finish(仕上げ)の略称です。収納家具は表面積が大きいため、CMFの質が空間の印象を決定づけます。私たちは「CMF指示書」を用い、単なる色指定だけでなく、製造現場と連携して触感や光の反射まで厳密にコントロールします。

  • 異素材の調和
    • 木材の温かみに、金属(アルミやスチール)のシャープさを組み合わせることで、モダンかつ上質な印象を与えます。
  • テクスチャの機能性
    • 指紋が目立たないマット塗装や、傷に強い高圧メラミン化粧板の選定など、美しさだけでなくメンテナンス性(清掃性)も考慮した仕上げを選定します。
  • 内側のデザイン
    • 扉を開けた時の内装材の色や質感にもこだわります。開けた瞬間に美しい内部が見えることは、ユーザーに所有する喜びを与えます。

3. インタラクション(操作感)のデザイン

「動く家具」である収納において、操作感のデザインはユーザー体験(UX)そのものです。カタログスペックには表れにくい部分ですが、ユーザーが店舗で触れた瞬間の「購入の決め手」になる最も重要な要素です。

  • ダンパーとヒンジの選定
    • 扉がバタンと閉まらず、ゆっくりと静かに閉まるソフトクローズ機能は、今や高級家具の標準です。開閉のトルク(重さ)設定も重要です。
  • レールの摺動性
    • 重い物を入れても軽く引けるベアリングレールの選定や、最後の一押しで吸い込まれるように閉まるセルフクロージング機構の実装。
  • ハンドルの形状と触感
    • 掴みやすく、かつ衣服が引っかからない形状を検討します。あるいは、ハンドルを無くしプッシュオープン式にすることで、フラットな外観を実現する手法もあります。

【83Design流】売れる収納家具を開発するプロセス

私たち83Designが支援する場合、単に図面を引くだけではなく、企画段階から入り込み、プロトタイピングを通じて検証を重ねます。ここでは、機能美を備えた収納家具を開発するための標準的なプロセスを紹介します。

Step 1. UX要件定義:何を「隠し」、何を「魅せる」か

まずは、ユーザーの利用文脈(Context)を徹底的に定義します。収納には大きく分けて「隠す収納(生活感を消す)」と「魅せる収納(ディスプレイ)」の2つの役割があります。

  • 収納物の分析: A4ファイル、衣類、食器、家電など、収納対象のサイズと重量を洗い出します。
  • アクセスの頻度: 毎日使うものか、季節ごとに取り出すものかによって、扉の有無や引き出しの位置を決定します。
  • 空間のゾーニング: リビング、キッチン、オフィスなど、設置場所の動線や視線の高さを分析します。

Step 2. コンセプト・ビジュアライズと3Dモデリング

UX要件に基づき、デザインの方向性を可視化します。スケッチだけでなく、初期段階から3Dモデリングを活用することが重要です。

  • ボリューム検討: 空間に置いた時の圧迫感やバランスを確認します。
  • 構造検証: 木工、板金、樹脂成形など、製造方法によって実現できる形状やコストが異なります。3D上でパーツの干渉や組み立て手順をシミュレーションし、実現可能性(Feasibility)を高めます。

Step 3. プロトタイピング(試作)による「ノイズ」の排除

収納家具開発において、最も重要なのがプロトタイピングです。3D画面上では確認できない「操作感」や「身体的な距離感」を検証します。ここで「ノイズ」となる要素(ガタつき、鋭利な角、操作の違和感)を徹底的に排除することが、洗練された製品を生む鍵となります。

  • スケールモデル: 全体のプロポーションを確認します。
  • 機能試作(部分試作): 実際のヒンジやレールを取り付け、開閉の重さや音、耐久性を確認します。
  • 使用検証: 実際に物を入れてみて、出し入れのしやすさや、デッドスペースがないかを確認します。

Step 4. シリーズ展開を見据えたシステム設計

単体の家具として完結させるのではなく、サイズ違いやオプションパーツによる拡張性を考慮した「システム設計(システム思考)」を行います。

  • モジュール化: 基本寸法(モジュール)を統一することで、横に並べたり積み重ねたりした際に美しく整うようにします。
  • 共通部品化: 部品を共通化することで、金型コストや在庫リスクを抑えつつ、バリエーション展開を容易にします。
  • 拡張性: 将来的なライフスタイルの変化に合わせて、棚板を追加したり、パーツを交換したりできるサステナブルな設計を取り入れます。

これからの収納家具デザインのトレンド

最後に、これからの収納家具開発において押さえておくべきトレンドと、工業デザインが果たす役割について解説します。

1. ライフスタイルの流動化への対応

リモートワークの定着や居住空間のコンパクト化により、家具にも「可変性」や「移動性」が求められています。キャスター付きのワゴン、部屋の間仕切りとしても使えるシェルフ、不要な時は折りたためる構造など、変化する生活シーンに柔軟に適応できるデザインが必要です。

2. テクノロジーとの融合(IoT家具)

家電と家具の境界線が曖昧になっています。収納家具にも電源確保や配線管理(ケーブルマネジメント)の機能が不可欠です。さらに、スマートロックによるセキュリティ機能や、内部照明(LED)の組み込み、空気清浄機能の統合などが進んでいます。熱排気や配線のしやすさを美しく解決するのは、まさに工業デザインの腕の見せ所です。

3. サステナビリティと循環型デザイン

「使い捨て」ではなく「長く使い続ける」、あるいは「素材を循環させる」ことが前提となります。分解・分別しやすい設計、修理のしやすさ、再生素材の活用など、環境負荷を低減するエンジニアリング視点が、製品の新たな価値となります。


まとめ:機能美とは、課題解決の美しい姿である

収納家具における「機能美」とは、デザイナーの感性だけで作られるものではありません。それは、ユーザーの行動、収納物の特性、空間の制約、製造コスト、そして時代の要請といった複雑な課題を、論理的かつ創造的に解決した先に現れる「解答」です。

工業デザイン(デザインエンジニアリング)のアプローチを取り入れることで、収納家具は単なる道具を超え、生活の質を高めるパートナーへと進化します。スペック競争から脱却し、長く愛されるブランドを築くために、ぜひ「デザイン」の力を開発プロセスに取り入れてみてください。

工業デザインの基礎や、製品分野別のデザイン事例については、以下の記事で詳しく解説しています。

🔗工業デザインとは?製品分野別デザイン事例と成功のポイント

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