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「仕事の“不条理”をなくしたい」 工業デザイナーたちが生み出した、異質のタスク管理アプリ「MOTHMOTH」開発秘話

「仕事の“不条理”をなくしたい」 工業デザイナーたちが生み出した、異質のタスク管理アプリ「MOTHMOTH」開発秘話

工業デザイン事務所「83Design(ハチサンデザイン)」。彼らはプロダクトの体験や形状など、ユーザーとモノが触れ合う境界を設計する工業デザインのプロフェッショナルだ。そんな彼らが、なぜ自らソフトウェア、それもタスク管理という激戦区のアプリ開発に挑んだのか 。

2024年9月に正式リリースを迎えたタスク管理アプリ「MOTHMOTH(モスモス)」 。 そこには、デザイナーならではの美学と、チームマネジメントにおける深刻な「ペイン(痛み)」、そして「仕事の“不条理”をなくしたい」という強い意志が込められていた 。

発案者である代表の矢野宏治さん、管理職としてチームを支え、UIのトーン&マナーの基礎を築いた近藤耀司さん、そしてUI/UX改善とプロジェクトマネジメント(PM)をリードした山中海渡さん 。本業は全員デザイナーである3名に、試行錯誤と情熱が詰まった開発ストーリーを伺った 。

(聞き手:ライター 木谷)


1. 背景と目的:「全体感」が見えないストレスと、非効率への抵抗

木谷: 本日はよろしくお願いします。まず最大の疑問なのですが、なぜ工業デザイン事務所がタスク管理アプリを開発することになったのでしょうか?

矢野: 2014年に法人化してチームが大きくなるにつれて、「全体感」が分からないと物事を判断しにくい、と感じ始めたのが最初のきっかけです 。各メンバーが何を抱え、プロジェクトがどう動いているのかという全体像が見えないと、自分として正しい判断ができていると思えなかったんです。

近藤: 僕がアルバイトで入社した頃(2017年頃)はまだMOTHMOTHはなくて。でも、当時から矢野さんが既存のツールに満足していないのは感じていましたね 。

矢野: そうなんです。会社員時代(コクヨ)から、僕自身にマネジメントのノウハウがゼロだった反動もあって、「全体感」にすごくこだわっていました。当時は「この案件のこれをやって」と上司からタスクが振られるだけで、全体がどうなっているか全く分からなかった 。 それが嫌で、会社員時代から勝手に全案件のスプレッドシートを作って、フェーズごとに進捗を管理していました。物理的なファイルも案件ごとに全部作って 。事前に「このタイミングでこれが来るな」とマイルストーンを把握して、言われる前にCMF(色・素材・仕上げ)を提案しに行く、みたいなことをしていました 。

木谷: その「正しい判断をしていると思えること」への執念が、83Designを設立してからも続いたわけですね。

矢野: はい。僕自身マネージャー経験があったわけではないので、人が増えてきたらもう管理がぐちゃぐちゃで。それに耐えられなくて、世の中にある有名なタスク管理ツールなども含めて色々使い始めました。お金を払って使ったんですが、結局、タスクの「粒度」をチームで揃えることができなくて、更新性も悪かった。Googleキープや手書きも試しましたけど、全部ダメでした 。

木谷: そこで「自分たちで作ろう」と?

矢野: じわじわですね。チームのタスク状況が全然分かっていないことが、僕にとってすごくストレスで 。 なんとか分かるようにしたい、「こんなのがあったらいいな」とアイデアをスケッチし始めたのが、MOTHMOTHというプロジェクトの本当の始まり(2020年頃)です 。当時、別の新規事業支援のプロジェクトで僕らが考えていたUI構想を話したら「面白い」と言ってもらえて 。それで自信を得て、知り合い経由で藤井さん(初期プロトタイプ担当)を紹介してもらい、最初のプロトタイプを作ってもらったんです 。


2. 機能と特徴:カレンダーは「パズル」。シームレスな“調整”の快感

木谷: では、工業デザイナーの視点で作られたMOTHMOTHの「ここがすごい!」という機能や、他のアプリとの決定的な違いを教えてください 。

近藤: やはり、チームのタスクの総量やスケジュール感が一目で見渡せて、ドラッグ&ドロップで日程を組めるところですね。優先度はハイライトで分かりますし、なにより「1日の日程を組む」のが本当に楽になりました 。 Googleカレンダーに予定を全部入力していくのって、結構手間じゃないですか 。MOTHMOTHはタスクを「ポイポイ」とカレンダーに直感的に放り込める 。朝礼で日程調整するときも、入力コストが下がったので、社内での「調整」が圧倒的に楽です 。

山中: 世の中のツールって、やるべきことが2種類あると思っています。ひとつは「忘れないようにToDoをプールしておく」作業。もうひとつは「それをいつやるか決める(タスク化する)」作業。この2つが分断されていることが多いんです。

矢野: MOTHMOTHは、抱えている全てのタスクを把握・理解し、解釈した上で、スケジュールとして計画・組み直すという一連の流れが、完全にシームレスにできます。そこが決定的に違います。

木谷: チームで使うメリットはいかがですか?

近藤: 他のメンバーがやっている内容も自然と目に入ってきます 。完璧にリソースが把握できるわけじゃないですが、「あいつ、あれやってないな」とお互い指摘し合える。「それ忘れてた!」みたいなカバーも生まれます 。

山中: Googleカレンダーに入っている他人の予定って、なんだか「触りにくい」感覚があるんですよ 。予定として確定している感じがして 。でもMOTHMOTH上だと、ちょっとした「パズル感覚」で、「これ、ずらしてもいいかな」と気軽に調整できるんです 。

近藤: 「これやっといて」と口頭で言われて忘れる、みたいなこともなくなりました 。「だったら(MOTHMOTHに)入れといてよ」って(笑) 。入力が簡単だから、それがストレスなく言える 。

矢野: まさに仕事におけるコミュニケーションを促すツールであり、在宅ワークが増えた現代において「ちゃんとやっているよ」ということを示すツールにもなり得ると思っています。

木谷: 示す、ですか。

矢野: ええ。例えば、割り込みタスクが入って、当初の予定が遅れたとする 。その時に、割り込みタスクをちゃんと入力しておけば、上司が見た時に「ああ、3Dプリンターの対応をしてたから遅れたんだな」と理由が伝わる 。 みんながフェアに評価され、オープンなコラボレーションができるような働き方を僕らは目指しています。MOTHMOTHが、そういう公平性やオープンさを引き出すきっかけになれば、日本全体にとっても大きな価値になるはずだと本気で思っています。


3. 開発プロセス:停滞からの再構築、そして「理想のUI」の挫折

木谷: 発案から正式リリースまで、かなりの期間がかかっています。開発プロセスについて教えていただけますか?

山中: (Miroの画面を見ながら)歴史がすごいことになってますね(笑) 。最初は藤井さんが開発したプロトタイプ(MOTHMOTH 1)からですね 。

矢野: そう。でも当時は、僕らはアプリ開発の「セオリー」を誰も分かっていませんでした 。藤井さんはあくまでプロトタイプとして、軽いテストに耐えられる設計で作ってくれたんです 。でも僕と近藤は、知識がないものだから「テストで動くなら実用もできるはずだ」と、そのまま社内運用でガンガン使い始めちゃって(笑) 。

木谷: そこが開発のターニングポイントですね。

山中: そうです。その「まともに動かない」状態から、MOTHMOTHを世に出せる形にするため、2023年にサーバー再構築ができる久松さんと、僕(山中)が本格的に参戦(MOTHMOTH 2)しました 。僕はPMとして全体を見ながら、自分でも開発を手伝えるようにHTMLやJavaScriptの講義も受けて勉強し始めました 。本業(デザイナー)と兼務だったので、本当に大変でしたね 。
この開発で一番勉強になったのは、最初の「尖ったUI」が全く受け入れられなかったことです 。白黒で、アイコンもほぼない、テキストだけのデザイン 。

矢野: ユーザーヒアリングで「この世界は白と黒しかないの?」って言われました(笑) 。あのUIを見た瞬間、ヒアリングに協力してくれた人たちが「考えることをやめてしまった」感じがしましたね 。

木谷: デザイン事務所として、それはかなり考えさせられたのでは。

山中: 作り手と使い手のギャップを強く感じましたね。あれはあれで、十分な予算があって、ちゃんと響く人に届けるマーケティングパワーがあれば行けた気もするんです 。でも、パワーがないのにやっちゃだめだった 。「理想だけで突っ走ってしまったな」と 。


4. 成果と展望:MOTHMOTHの価値は「UI/UX」にある

木谷: 6月の「APPS JAPAN」でのお披露目を経て、9月に正式リリースされました。反響はいかがですか?

矢野: 6月の時点(APPS JAPAN出展時)で痛感したのは、自分たちが思っていたよりも「ちゃんとしたサービス」として世の中に認識してもらうのは難しいんだな、ということです 。それと、細部まで気にするのだなと。コアな価値を感じてもらうためには、関連する細かい動きなどの細部もやっぱり必要だということを、改めて思い知らされました。

木谷: まさにMVP(実用最小限の製品)の難しさですね。

矢野: そうですね。コアな価値に到達してもらうための「表層としてのデザイン」が欠如していると、ユーザーに拒絶されてしまい、価値が伝わらないんです。

山中: 機能は技術とデザインで構成されていて、その機能の性能が評価されます。MOTHMOTHの骨格としてのデザイン(UI/UX)は本質的には変わっていません。ただ、MVPの段階でも表層のUI(=心地よさ)が洗練されていないと、僕らのアプリの価値に触れてもらえないんです。

木谷: 「理想のUI」の失敗を経て、現在のデザインにたどり着いたわけですが、ユーザーさんの反応は変わりましたか?

山中: まったく変わりました 。最近の反響で嬉しいのは、「UIのデザインがいい」「可愛い」そして何より「見やすい」と言ってもらえる率が高くなったことです 。

木谷: 「見やすい」ですか。

山中: はい。以前の「尖ったUI」は、本質的には見やすいはずなのに、見た目の「嫌悪感」というかバリアのせいで、ユーザーが「見よう」とさえ思ってくれなかった 。そのバリアが(近藤さんたちが作ってくれた今のUIで)取り払われて、やっとMOTHMOTHが持つ本来の「見やすさ」という価値が、ちゃんと届くようになってきたのかな、と感じます 。


5. まとめ:「監視」ではなく「オープンなコラボレーション」へ。チームを支える“愛嬌”のあるツール

木谷: 最後に、MOTHMOTHを通じてユーザーに伝えたいメッセージを一人ずつお願いします。

山中: ターゲットとしては、やっぱり「頑張りたい人」に響いてほしい 。「仕事楽しくやりたい」「仕事頑張っていきたい」という人たちが、MOTHMOTHを使ったら「みんなで楽しくやれそうだ」って感じてもらえると嬉しいです 。

近藤: 山中さんが言うように「頑張りたいけど、管理とか難しい」みたいな人が、MOTHMOTHで「乗り越えていける感覚」はあると思います 。「とりあえず入力する」というハードルを超えたら、そこから「人と話せるようになる」 。何も入れてないと、お互い何をやっているか分からなくてフラストレーションが溜まる 。MOTHMOTHを使うことで、その溜まり方が変わるというか 。

矢野: そう。「なんであれやってないんだ」みたいな「不条理さ」による痛みじゃなくて、「ああ、昨日あれをやったからな」っていう健全な「筋肉痛」みたいな感じになる 。

木谷: 健全な痛み(笑)。

矢野: 今の時代って、ワークライフバランスを大事にしてる人が多いから、「決められた時間でちゃんとやってます!」ってフェアに働きたい人と、僕らみたいな「ワークアズライフ」な人、どっちのタイプにもMOTHMOTHを使ってほしいんだよね。

ただ、タスク管理ツールってちょっと監視されてるみたいに感じさせちゃうのが課題かな。MOTHMOTHも、そういう「監視」の感覚を和らげ、チームに根付かせるための文化づくりを含めた「愛嬌」のような工夫が、UIとして必要なのかもしれない、と思っています。工業デザイナーとして、そういう部分で貢献したいですね。

木谷: 監視ツールではなく、チームのオープンなコラボレーションを支えるツールとして、文化づくりも含めて愛嬌をもって浸透させていくと。本日は、紆余曲折を経た開発ストーリー、ありがとうございました。


工業デザイン事務所ならではの視点で、タスク管理のあり方を見つめ直したMOTHMOTH。あなたのチームの「全体感」を取り戻すために、ぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。